雄弁に語る映像~映画『ペタル ダンス』を観た。
「ペタルダンス」石井寛監督に、宮崎あおい、忽那汐里、安藤サクラ、吹石一恵という顔ぶれの女同士の友情を描いた映画。私は石井監督の前作「好きだ、」を何度も繰り返し見るほど気に入っていたので、とても楽しみにしていた。そして期待を上回る素晴らしい出来だった。とは言っても宮崎あおいが舞台挨拶で言うように人を選ぶ映画ではあると思うけれど。『好きだ、』が好きな人は好きになるんじゃないかなあと思う。
(C)2013『ペタルダンス』製作委員会
本作には大胆なストーリー展開もなければ、それを補うような過剰な演出もない。ただ淡々と彼女たちが静かにセリフを紡ぐことで物語が進んでいく。そんなとても静かな映画である。だけど、静かでもその情景や彼女たちの表情など、その映像はとても雄弁だ。
たとえば風。比喩的にも映像的にも映画の中で風が吹き乱れている。『ペタル ダンス』における女性達は皆、風に吹かれて生きている。なんとか風をしのいで生きることができる人もいれば、ミキのように風にまともにぶつかって折れてしまう人もいる。木のように地面にじっと根を下ろしまともに風を受ければ曲がってしまう。飛行機やカゴメのように、向かい風でもうまく利用しさえすれば風にのって空を飛ぶ事ができるのに。羽のない人間はどうすればいいのだろう。花びらのように風にふかれるまま生きれば、少なくとも追い風も向かい風もなくなり、美しく生きることができるのではないかとこの映画は映画全体にわたって観ている人に語りかける。
この映画の海の風景は異様なまでに綺麗だ。思わず息を飲んでしまうほどの情景は何を雄弁に語るのか。空は曇り、風は吹き荒び、海は波打っているが、雲の合間から光がさし、地上には四人の綺麗な女性が佇んでいる、そんな情景。この殺伐とした風景が彼女たちの存在感を一層際立たせる。まるで彼女たちは荒れる世界に佇む天使だとでも言いたげなシーンである。天使の梯子をつたって地上に降りてきた天使のようだと。そして空舞うカゴメたちはそんな彼女たちを祝福しているのだと。言い過ぎか?そんな風に語っているようなシーンだった。
女優陣の演技も素晴らしかった。抑制的な表情とそこに垣間見える笑顔。そこに、問題を抱えながらもなんとか強くあろうとする人の意志を感じることができた。特に宮崎あおいの表情には驚かされた。すこし疲れたような表情のリアリティはとても素晴らしかった。実際ただ疲れていただけかもしれないけれど。
ああ、何度も見たい。ずっと見ていたい。夜自室に引きこもって電気を消して、ベッドに寝転がりながら、大型のスクリーンでぼーっと見ていたい。ミキに会いに行く道中で昼ごはんにラーメンを食べるシーン、旅館で皆がぼーっとしているシーン、ミキと海を訪れてその景色に見入っているシーン。ああまた見たい。早くDVDが欲しい。
- 作者: 石川寛,梅原満知子
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- 発売日: 2013/03
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この小説版では映画では描かれなかった登場人物の背景などが書かれているので本作を気に入った方は是非。
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この映画を気に入ってまだ『好きだ、』を観たことがない人は是非。この映画ではまさにザ・少女の宮崎あおいを観ることが出来ます。