俺には明日のことがわからない。

 俺には明日とか明後日とかそんなことがよくわからない。疲れなのかなんなのか。昔は好きだった読書もあまり出来ていない。いや読んではいるんだけれども、集中して読むことが出来ていない。だから印象にも記憶にもあまり残らず、時間をかけて感想文を書く気も全く起きない。読みかけの本があちこちに散らばっている。
 
 そんな床に散乱している本を見て、ああ、読まないと・・・と一瞬胸が苦しくなるのだけれど、如何せん、こっちは12時間労働して疲れて帰ってきて、さあ本を読もう!なんて気には全くならない。
 
 そこで俺は、そんな散らばった本を横目に、カバンからそっと、TSUTAYAで借りたDVDを取り出す。今日は『モーターサイクル・ダイアリー』というロードムービー。今はロードムービーが俺のマイブーム。『イントゥ・ザ・ワイルド』、『イージーライダー』に続いてこの映画。『パリ、テキサス』はまだ観ていない。
 
 さあ、ここじゃないどこかへレッツゴー。とても手軽な楽しみだ。
 
 そう、映画はとても手軽な楽しみだ。徹底的に受け身になることが出来る、全くすばらしい娯楽である。映画館の暗闇、電灯を消した部屋、椅子に体をもたれかけ、じっと眼と耳を澄ませて集中していると、今のこの場所、この俺、を忘れることができる。つかの間の快楽。その時にだけどうしてか自由を感じることができる。
 
 ああ、俺は自由だ・・・二時間だけの自由。
 
 ぽつんと一人、エンドロールで現実に引き戻されないよう、この自由を、夢を、長引かせることが出来るよう、俺は精一杯頭のなかを映画で埋め尽くして、目を瞑る。
 
 俺には明日のことがわからない。